山浦 雅大さん 2000年日本文学科 脚本家

インタビュー

誰もが夢中になるエンターテインメント作品を生み出す。

映画『爆弾』で第49回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した脚本家、山浦雅大さん。エンターテインメントの最前線でヒット作を連発し、大きな注目を集めています。インタビューでお話を伺うと、物腰が柔らかく自然体の穏やかなたたずまいが印象的でした。観客を夢中にさせる物語はどのように生まれるのか、また母校での思い出を語っていただきました。

原作の良さを失わず魅力を引き出す作品づくり

2025年10月公開の映画『爆弾』の共同脚本は、2024年ごろに企画のお話をいただき、半年ほどで書き上げました。原作を読んだ時から次の展開が気になってどんどんページをめくってしまう、そんなワクワクする作品だと感じました。どうすれば、この世界観を維持しながら2時間の映像に凝縮できるのか。膨大な情報量から何を残し、どこを削るかという取捨選択に心血を注ぎました。キャラクターの描き方も、原作のある作品では脚本家の腕の見せどころです。爆弾の存在を予告する正体不明の中年男性「スズキタゴサク」は、執筆段階からある程度、佐藤二朗さんをイメージして書ける環境にありました。具体的な人物像を思い描けていたからこそ、原作の世界観を壊さずにキャラクターの個性を際立たせることができたと自負しています。 校友の皆さんならお気づきでしょうが、映画『爆弾』には立教大学池袋キャンパスが登場します。劇中で大学生が爆破予告動画を視聴して、逃げ惑うシーンです。脚本では単に「大学キャンパス、授業中、スマホを見て学生がざわつく。」とだけ書いていました。ロケ地は制作スタッフがイメージに合う場所を探すのですが、その結果、偶然にも立教大学が選ばれていたのです。

(C) 呉勝浩/講談社 (C) 2025映画「爆弾」製作委員会


私自身、試写会で映像を見るまで撮影場所を知らなかったのですが、画面に映った瞬間「8号館の階段教室だ!」「ここは藤棚あたりじゃないか」と驚きました。学生たちがスマホを手に右往左往するシーンは、第一食堂の近くでしたね。意図せず、自分の作品の舞台に母校が登場するのは、卒業生としてもうれしく思いました。 私の創作の根底にあるのは、「とにかく観客が夢中になれる作品を作りたい」という思いです。高尚な思想やメッセージを伝えることよりも、見た人が「あっという間だった」と感じてくれること、そのエンターテインメント性こそが私の一番のこだわりです。プロデューサーや監督と協力しながら、多くの人が楽しめるクオリティーの作品を生み出すことに誇りを持っています。

プロとしての自覚と、磨いた技術を変幻自在に操るスキル

今でこそ多くの作品に関わらせていただいていますが、脚本家としてのスタートは決して順風満帆ではありませんでした。脚本家を目指したのは、もともと映画監督への憧れがあったからです。大学時代に岩井俊二監督の作品に心をつかまれ、自分も映画を撮りたいと思うようになりました。映画監督への第一歩として、まずは脚本を書けるようになろうと考え、シナリオ・センターに通い始めました。

20代半ばの新人脚本家時代、新島在住の友人を訪ねて。右が山浦さん

卒業後はフリーターをしながら脚本を書き続け、幾つかの脚本コンクールに応募し「フジテレビ ヤングシナリオ大賞」を24歳で受賞。その後すぐにプロとして『世にも奇妙な物語』でデビューし、さらに連続ドラマ『ダイヤモンドガール』を担当することも、とんとん拍子で決まりました。周囲からは、順調にキャリアを積んでいるように見えたかもしれませんが、実際には連続ドラマの仕事を途中で降板するなど、うまくいかない時期が続きました。脚本で生計を立てるなど夢のまた夢で、「辞めたい」と思ったことも少なくありません。ただ、その時期に企画を10本、20本と考え続け、必死に書き続けた経験が、脚本家としての底力を鍛えてくれました。大きな転機になったのは、30歳を前に脚本家事務所に入ったことです。そこで出会ったマネージャーから、プロとしての仕事観を学びました。
それまでの私は、自分のスタイルを前面に押し出す――野球でいえば「ストレート」しか投げられない状態でした。しかしマネージャーから、プロデューサーが言葉の裏で何を求めているのかを読み解き、時には「カーブ」や「チェンジアップ」のような変化球を投げる工夫も必要だと教えられました。相手の意図をくみ取り、磨いてきた表現方法の中から最適な「球種」を選んで使い分ける。そうした柔軟性を身に付けたこともあって、一気に仕事が軌道に乗り始めました。

「この人と一緒に作りたい」と思ってもらえるように

仕事をしていてうれしい瞬間は、関係者に「山浦となら楽しみながら作品が作れる」と言ってもらえた時。最近はプロデューサーの方から「いつもひょうひょうとしていますね」なんて言われることもあります。実際には、脚本の修正依頼を受けると「これ、どうやって直せばいいんだ」と頭を抱えることも多いのですが(笑)。20代、高い要求に応えようと必死に努力した高地トレーニングのような日々を過ごしたからこそ、多少のことでは動じなくなったんだと思います。「まあ、なんとかなるでしょ」という開き直りが、周囲の目には「余裕」として映っているのかもしれませんね。

大作家でもない限り、仕事は「この人と一緒に作りたい」と思ってもらえる人に回ってくるもの。かつての自分のように「ストレート」1本で勝負するのではなく、相手との対話というキャッチボールを楽しみながら作品づくりに励む。そんな今のスタイルが、結果的に良い仕事の縁を運んできてくれているのだと感じます。

振り返ってみると、立教大学で過ごした、とりわけ大学生活で最も夢中になった「立教大学劇団テアトルジュンヌ」での日々は、年3回の公演に明け暮れ、仲間と台本を囲んで「このセリフはどう言うべきか」「このト書きにはどんな意味があるのか」と議論を深めた濃密な時間でした。授業をサボることもしばしばで(笑)、文字通り芝居漬けの毎日を送っていました。サークル以外では、2年次の「沖縄キャンプ」で出会った仲間たちとの絆も続いています。現地のハンセン病療養所を訪れ、共に語り合った忘れられない日々。卒業から20年以上が過ぎた今も交流が続いています。2年前、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら』で第47回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した際にも、当時と変わらぬ雰囲気で集まってお祝いしてくれました。 今回もとても偉大な賞を受賞する機会に恵まれました。賞をいただけたことは光栄ですが、受賞したからといって自分の作品づくりに大きな変化があるわけではありません。これからも変わらず、「この人と一緒に作りたい」と思ってもらえるような仕事を続けながら、見る人が時間を忘れて夢中になれるエンターテインメントを作っていきたいです。

大学2年の春公演、『ラジオデイズ』の写真

CHECK! 山浦 雅大さん最新情報

山浦雅大さんが手がけた脚本作品の最新情報をお知らせします。

Netflix映画『This is I』

タレント・はるな愛さんの実話と、性別適合手術の道を切り開いた実在の医師・和田耕治さんの物語をベースにした感動作。主演に新星・望月春希、医師役に斎藤工を迎え、葛藤を抱えながらも「アイドルになりたい」という夢を追う主人公と、彼を支える医師との絆を鮮やかに描き出しています。2026年3月現在Netflixにて世界独占配信中。

映画『口に関するアンケート』

SNSを中心に話題となり、累計32万部を突破した原作『口に関するアンケート』(著者・背筋/ポプラ社刊)の映画化作品。ホラー映画界の第一人者・清水崇が監督を務めています。物語は、板垣李光人さん演じる主人公が友人と肝試をしに墓地に行ったことから、想像を絶する恐怖に巻き込まれていく姿を描きます。2026年公開予定。

映画『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』

興行収入45億円を突破する大ヒットを記録した映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」待望の続編。前作から7年後の現代を舞台に、時空を超えて出会い、愛した特攻隊員・彰を失った主人公・百合のその後を描く物語。2026年8月7日公開予定。

山浦 雅大(やまうら まさひろ)

2000年文学部日本文学科卒業(当時)。2002年に第14回フジテレビ ヤングシナリオ大賞を受賞しデビュー。ドラマ『ルーズヴェルト・ゲーム』『家政夫のミタゾノ』、映画『亜人』『サイレント・トーキョー』など多数の脚本を手掛ける。映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』にて第47回、映画『爆弾』にて第49回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞。